Research



近年、タンパク質構造や遺伝子配列をターゲットとするオミックス研究の進展により大量の生命情報がオープンデータベース上へ集積しています。Protein Data Bank (http://www.pdb.org/pdb/home/home.do)には多様な生物種のタンパク質立体構造が登録されており、また、生命情報のみならず化学情報に関してもPubchem (http://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/)やZINCデータベース (http://zinc.d ocking.org/)等に化学物質の構造データが公開されています。

これらの大量の生物・化学データから意味のある情報を抽出しうまく加工する事ができれば様々な生物を制御することに応用できると期待されています。わたしたちの研究チームはタンパク質と化合物の三次元構造データ利用した薬物や毒物のバーチャルスクリーニング技術を用いた生物・化学情報の応用研究をこれまで進めてきました。タンパク質立体構造を予測するためのツールModeller (http:// www.salilab. org/modeller/)や分子動力学計算ツールgromacs (http://www. gromacs .org/)等を用いてバーチャルスクリーニングの標的タンパク質構造を加工・生成する手法も確立しています。

また、UCSF-DOCK(J. Mol. Biol. 161 p269.1982)やCCDC-GOLD(J. Mol. Biol. 267 p727.)等の種々の結合シミュレーションツールを階層的に組み合わせたhierarchicalバーチャルスクリーニング手法を確立し(Biotechnol & Biotechnol Equip.1, p634, 2008)、linux並列コンピューティング技術による高速計算環境を構築しています。

さらに、DG-AMMOS/FROG2等の化学物質の三次元構造生成ツールを用いて独自の化合物ライブラリの作成等も行っています。これらの研究ツール群のほとんどはコードが公開されたオープンソースツールであり、計算リソースに関してもフリーの並列化ライブラリで市販PCを連結して計算環境を構築することで低コスト・高パフォーマンスで拡張性の高いシミュレーションシステムを確立しています。一方、わたしたちはin silicoのバイオシミュレーション(ドライ系)とin vitroやin vivoの生物学的実験による種々のバイオアッセイ(ウエット系)を一つの研究拠点で行う事で、シミュレーションデータを元に生物学的実験をデザインし、得られたデータをシミュレーションへフィードバックさせるメリットを活かしドライ系とウエット系が緊密に融合した研究プラットホームを構築しています。

これまでに様々な細胞内酵素や、膜タンパク質、細胞外タンパク質に対する結合化合物のバーチャルスクリーニングを行い、約100万化合物を1週間程度でスクリーニングし実際に標的タンパク質に結合し薬理作用を発揮する化合物を数多く同定してきました。また、わたしたちのバーチャルスクリーニング系ではスコアリングトップ10化合物の正答率が約10-40%で作用化合物が同定出来ており、これまでに数十nMレンジで作用を発揮する創薬のリードとなりうる化合物の同定にも成功しています。